人体発火現象


伝説 火の気が全くないにもかかわらず、人間の体が突然燃え出す怪現象がある。それは人体発火現象(Spontaneous Human Combustion)。通称SHCとも呼ばれる。

この怪現象が起きた有名な事件は数多く記録されている。

1966年12月5日の寒い朝、ペンシルバニア州カウダーズポートで事件は起きた。ドン・コスネルという検針係員は、ガス・メーターを見るために、ジョン・アービング・ベントレーという92歳の元医師が住むビルの地下に入っていった。

地下の階段には異臭を放つ青く光る煙が漂っていた。不審に思ったコスネルは、煙の出ている部屋に踏みこんだ。すると、彼は生涯忘れることのできない光景に出くわした。

バスルームの床に縦75センチ、横120センチほどの穴が開いており、穴の縁に彼が見たものは、ベントレー氏の「褐色に変化した、まるでマネキン人形のような脚」だった。ベントレー氏は、右足のすねから下を残して骨まで灰となって見つかったのだ。火種になるものは見つかっておらず、事件は未だに謎のままである。

1951年7月2日には、フロリダ州セントピーターズバーグで事件は起きた。メアリー・リーザーという67歳の女性が暮らすアパートに、大家のカーペンター夫人が訪ねると応答がない。不審に思った彼女がドアの取っ手に触れると、握れないほど熱くなっていた。

悲鳴を上げた夫人に気付いて、街路の向かいで仕事をしていた塗装工が駆けつけた。彼らが中に踏み込むと、そこにはリーザー夫人の変わり果てた姿があった。彼女は、いくつかの骨片と焼けて握りこぶしほどに小さく縮んだ頭蓋骨を残して、炭殻となってしまったのである。

現場の室内には、ほとんど損傷がなかった。法医学者のウィルトン・クログマン博士は、「アパート自身を燃やすことなくこれほど完全に火葬した例を私は知らない。当然、アパートや内部のものすべてが焼失してしまっているはずだ。頭蓋骨が縮んでしまうほど強烈な火災というのも、これまで見たことがない」と語っている。
謎は未だに解かれていない。

この他にも、1982年9月15日にイギリスのエドモントンで人体発火現象が発生した。脳に障害をもっていたジーン・サフィン(61)は、母親を亡くした後から体調を崩し、妹夫婦の家で療養していた。そしてある日、彼女は突然苦しみだし、信じられないことに口から火を噴いて頭部が炎上したのだ。

ジーンは近くの病院に運ばれた後、マウントヴァーノン病院の火傷専門治療室へと移り治療を受けた。しかし治療の甲斐なく8日後に亡くなった。

義弟のドン・キャロルは、ジーンの頭部と腕、そしてカーディガンの一部が焼けただけで他に延焼はしなかったと語っている。顔と腕はひどい火傷で、火を噴いたという口の中も焼けていた。現場に火の気はなかったという。

この他にも多くの人体発火現象が報告されているが、全てを矛盾なく説明できる仮説は未だに存在しない。人体発火現象・・・その真相は、今なお謎のままである。

 

 


 

謎解き ミステリーや不思議が好きな人なら、この「人体発火現象」について一度は聞いたことがあるだろう。非常に有名な怪現象である。

だが、この「有名な謎」は本当に謎なのだろうか。確かに、すべてを矛盾なく説明できる仮説は未だに存在しない。
ロウソク化現象と呼ばれる現象で説明できるものもあるが、火種になるものが全くないにもかかわらず突然燃え出したものは説明できないし、短時間で燃えたものも説明できない、といわれる。

しかし、すべての事例を1つの仮説で説明する必要などないのだ。一つ一つのケースを丹念に調査していけば、それぞれにあった仮説があることに気付く。
そして、この有名な人体発火現象の謎も、ほとんどは謎が解けるのである。

以下では、この怪現象を徹底的に調べたジョー・ニッケルの調査を参考にしながら、各ケースごとに謎解きを行ってみることにしよう。

 

ジョン・ベントレーのケース

人体発火現象の謎の一つに、火種となるものがなく、出火原因がわからないというのがある。ジョン・ベントレーのケースも、謎だと言われている。

しかし実際には、出火原因はわかっているのだ。ジョン・ベントレーは生前いつもパイプを吹かしていて、衣服に灰を落とすことが「たびたびあった」という。また彼の衣類には、以前そうやって灰を落として出来た焼け跡が点々と残っていた。
そして、寝室のカーペットにパイプの灰で出来た燃え跡が残っていて、死の直前にも灰を落としていたことが判明している。

だがこの事実に対し、人体発火現象の研究家でもあり、信奉者でもあるラリー・アーノルドが、1976年の『パーシュート』誌で矛盾点を指摘した。

「ベントレーのパイプは椅子のそばのパイプ・スタンドに慎重に置かれていた。これは体に火がついた人間のとる行動ではない。また彼は、死の6年前に腰を痛めていたことが原因で左脚の感覚が麻痺していた。そのため歩行器を使用していた。元医者である彼が、おぼつかない足どりで浴室に行く危険を冒すより、衣服を脱ぎ捨てるほうが生き延びるチャンスがあることぐらい、十分にわかっていたはずである」


正直なところ、何が矛盾しているのかわからない。
まず、パイプ・スタンドに慎重に置かれていたことについては、「火がついたときにパイプを置いたとしたら」という仮定で書かれている。

しかし、衣服に灰を落としたらすぐに火を出して燃えるわけではない。火がつく前にパイプを置いていたら矛盾などしないではないか?

つまり、衣服に灰を落としたことに気付かず、パイプ・スタンドにパイプを置いた。そして、あとになって服が燃え出したときに灰を落としたことに気付いたとしても、まったく矛盾はないはずだ。

次に、元医者であるから不自由な足で浴室へ向かうよりも、衣服を脱ぎ捨てるほうを選んだはずだ、というのもよくわからない。

医者は消防の専門家ではない。もちろん、中には服を脱いだほうが助かる可能性が高いと判断できる医者もいるだろうが、“医者だから”しっかりとした判断ができるはずだというのは、当サイトの「Step 3 」で紹介した“パイロットだから”見間違いをするはずがない、という思い込みと同じくらい大きな間違いである。


【追記】 このジョン・ベントレーのケースについて、「人体が右足だけ残し、後は骨まで灰になっているのに、大きな火災にもなっていない。そのようなことが実際に可能なのか」という質問をいただいたので、以下に補足します。

まず、「伝説」では右足以外すべて灰になったと書きましたが、実際には右足以外にも頭蓋骨などが灰にならずに残っていました。
これは謎解きで書くべき情報だったのですが、うっかり書き忘れていました。すみません。

また大きな火災にならなかった理由ですが、これは最終的に火災となったのは周りに燃え移るものがない浴室であったこと、また燃料となるものが、ベントレー氏が着ていたローブと、本人の脂肪しかなかったことが原因だと考えられています。

流れとしては、次のようものです。

(1) ローブにパイプの灰を落とす。
(2) 数分後、ロープから出火。
(3) ベントレー氏は不自由な足で浴室へ向かう。
(4) 浴室へ辿り着いたころにはローブは炎上。
(5) 氏は火のついたローブを浴槽に投げ入れる。(発見当時、ローブは浴槽の中でくすぶっていた)
(6) しかし火は体にも引火しており、ベントレー氏は死亡。遺体は下でも書いている、人体の「ロウソク化現象」により低温で燃え続けた。

おそらく、このような流れだと推測されます。

 

メアリー・リーザーのケース

続いては、メアリー・リーザーのケースについて。おそらくこのケースは、人体発火現象の中でも最も有名なものだろう。

謎は大きく分けて三つある。一つ目は出火原因がわからないこと。二つ目は、人体の触れていた場所以外はほとんど燃えていないこと。三つ目は、骨まで焼き尽くされていたこと。

まず一つ目の「出火原因がわからない」については、実際にはリーザーが吸っていた、タバコが出火原因であることがわかっている。
また彼女は息子に、「睡眠薬を2錠飲んだけど、寝る前にあと2錠飲んでみるわ」と電話で話していた。

おそらくリーザーは、タバコを吸いながら居眠りし、火のついたタバコを自分の服の上に落としたのだろう。彼女は最後に目撃されたときに、寝間着を見につけ、その上に化粧着を羽織っていたが、どちらも燃えやすい布地からできていた。
そして、詰め物がたっぷり入った燃えやすい椅子に彼女は座っていたのである。

二つ目の「人体の触れていた場所以外はほとんど燃えていない」についてはどうだろうか。これも、実際に起きたこととは食い違う。
実際には、炎は室内に燃え広がっていた。椅子のそばの机もやランプも燃え尽きていたし、仕切り壁の上の天上の桁は発見当時に燃え続けていた。大きな火災にならなかったのは、床がコンクリート製だったので、床から燃え広がずにすんだためだと考えられている。

次は三つ目の「骨まで焼き尽くされていた」件についてである。確かにいくつかの骨片を除いて、大部分の骨は焼き尽くされていた。

ところが、「頭蓋骨は握りこぶしほどに小さく縮んでいた」という話は、嘘である可能性が高い。というのも、この話が最初に登場するのは、ウィルトン・クロウグマンという人物が事件の数年後に書いた『炭殻になった女の超常的事件』という雑誌記事なのだ。

クロウグマンは事件を直接取材したわけではないし、記事の中でも「縮んだ頭蓋骨」と明言しているわけではなく、「頭部とおぼしき球状の物体」と書いているにすぎない。専門家の話では、この「球状の物体」の正体は、「頭蓋骨の底部とつながっている首の部分の、筋肉組織が焼けて出来た球状の塊」にすぎなかった可能性が高いという。

他の骨は焼き尽くされていた。「火葬場で焼いたみたいに骨と灰だけにするには、摂氏1370度以上の高温で3時間以上焼かなければ無理だ」とも言われる。

しかし実際には、摂氏870度〜980度という比較的低温で1時間半焼いただけでも、遺体は骨と灰だけになるのである。また、もっと長時間にわたって遺体が燃え続けることができれば、さらに低温の環境でも骨と灰だけにすることができるだろう。
実際リーザー夫人は、10時間近く燃えていたのである。

人体発火現象のケースで遺体の損傷が激しい場合は、人体のロウソク化現象による火災が原因だと考えられている。
着ていた衣服が燃え尽きたとしても、まるでロウソクのように自らの体にある脂肪分が燃料となり、いつまでも燃え続けるのである。

また酸素の少ない環境で起きた火事だと、普通の火事のように炎が周囲に燃え広がることがなく、火元の近くでチロチロと燃えることになる。
リーザーのケースでは、床がコンクリートだったことが大火災にならなかった原因だったが、他のケースでは部屋が締め切られていたケースが多く、酸素の少ない燃焼環境が多い。


【写真引用元】
『超常現象の謎に挑む』 コリン・ウィルソン【著】 (教育社) P.461

 

ジーン・サフィンのケース

このケースの最も驚くべきところは、やはり「口から火を噴いた」という点だろう。
口の中には火傷の跡があったというし、もし事実なら驚くべきことである。

しかし、当時の記録には「口から火を噴いた」というような記述は、どこにも書かれていない。さらに、ジーン・サフィンの遺体を検死したマウントヴァーノン病院の検死官は、「ススが彼女の鼻にあったが、口の奥は無傷に見えた」と語っている。そして、このことは検死で確認された。体内に燃焼の跡は全くなかったのである。
またジーンの体は、一部を除いてほとんど焼けていなかったというが、実際には体の表面の約30から40パーセントに重度の火傷を負っていた。

では、口の中に火傷の跡があったとか、「口から火を噴いた」という話は、どこから出てきたのだろうか? 実は、この話は事件から12年も経った1994年に、義弟のドン・キャロルが突然言い出したことなのである。

私の推測では、人体発火現象(SHC)の研究家であるラリー・アーノルドが、『Ablaze!』というSHCに関する本を出版する際にドン・キャロルにインタビューをし、そのときにキャロルが話を面白くするために創った話ではないかと考えている。

では火元についてはどうだろうか。
事件当時、ジーン・サフィンは父親のジャック・サフィンと共に台所の椅子に座っていた。そして午後4時15分ころ、ジャックは隣に座っていたジーンが燃え出していることに気付いた。

通常、SHCの伝説では、このとき火元になるようなものは何もなかったと言われる。
しかし実際には、隣に座っていた父親のジャックは手にパイプを持っていたのである。そして、2人が座っていた台所の窓は開いていた。

仮にパイプに火がついていなかったとしても、以前吸ったときの灰に、残り火があったのではないだろうか? そしてパイプに残っていた灰が風に飛ばされ、ジーンの服に着火した可能性は十分あり得ることだろう。

現場に駆けつけた警察官のレイ・マースデンは「私がそこに到着したとき、衣服はまだ燃えていた」と話している。最も燃えていたのは頭部ではなく、ジーンが着ていた衣服だったのである。

また彼女はこのとき反応が無く、ただじっとしていたと言われることが多いが、これも事実ではない。この事件を、より奇怪な事件にしたいSHC信奉者は触れないが、実際にはジーンは泣いていたのである。

 

ヘレン・コンウェイのケース

この事件は、1964年11月8日にペンシルバニア州デラウェア・カウンティーで起きた。犠牲者はヘレン・コンウェイ。孫娘が頼まれた買い物から帰ってくると、コンウェイは両足の膝から下を残して焼き尽くされていた。

この間、最長でも20分、最短で6分ほどの出来事だったという。
コンウェイは不注意なヘビー・スモーカーで、彼女の部屋からはタバコの焦げ跡が発見されている。また孫娘が買い物に出かける際に、コンウェイに新しいマッチ箱を渡していた事実から、火の不始末が出火原因だと考えられている。

しかし、これに疑問を投げかける人物がいた。SHC研究家のラリー・アーノルドである。彼によれば、6分で焼き尽くされるというのは、あまりにも短すぎるという。そこでアーノルドは、彼女は爆発したのではないか? と珍推理を披露している。

もし本当に爆発したのなら、遺体の残骸が飛び散っているはずだ。しかし、現場に遺体は散乱していなかった。

では、時間が短すぎるというのは?
これについては、このページで紹介した3枚の写真をよく見比べてほしい。ベントレーのケースでは、床に穴が開くほど長時間燃えていた。リーザーのケースでは、彼女が座っていた椅子は焼き尽くされ、遺体のほとんどは炭殻となっていた。

もしコンウェイのケースが、これらと同じような現場状況であれば、確かに驚くべきことだろう。

しかし、実際の状況は明らかに違う。
コンウェイが座っていた椅子は原型をとどめていたし、遺体もバラバラになるほど焼き尽くされたわけではなかった。床に穴が開いていたわけでもない。写真を見比べれば一目瞭然だろう。

おそらく、彼女は膝か腹部のあたりに火のついたタバコ(もしくはマッチ)を落としたのだと思われる。人体発火現象では、服に火がついたショックで心臓麻痺を起こして亡くなるケースがあるが、コンウェイの場合も遺体に大きな乱れがないことから、心臓麻痺を起こした可能性が高い。

膝上か腹部のあたりに落とした火は、衣服に引火し燃え上がった。短い時間で遺体が焼けたのは、火は上に向かって燃え上がるという性質のためだろう。マッチに火をつけて横向きにすると、それほど早く燃えないが、火元を下にして垂直にすると燃焼のスピードは急激に速くなる。

写真をよく見てほしい。あの姿勢なら、膝か腹部のあたりから燃え始めれば、膝から上が短時間で焼かれてしまったとしても不思議ではない。


【写真引用元】
『Mark Benecke: Spontaneous Human Combustion (SHC) (Skeptical Inquirer 1998)』http://www.benecke.com/combust.html

 

そのほかのケース

他にもいろいろなケースが報告されているので、いくつかをまとめて紹介しよう。


・ゲールリッツ伯爵夫人のケース

1847年6月に起きたこの事件では、ゲールリッツ伯爵夫人という人物が犠牲になった。遺体は、発見当時すでに燃え尽きて炎は出ていなかった。頭部の焼け方がひどく、全身が「ほとんど原形をとどめていない真っ黒い塊」と化していた。

警察の捜査の結果、シュタウフという名の召使いが、伯爵夫人の宝石類を所持していることが発覚した。その後、召使いは「盗み出しているところを伯爵夫人に発見され、大声をあげようとしたので首を絞めた」と白状している。殺人の形跡を隠すために、遺体に火をつけたのである。


・ 詳細不明のケース

ここでは、一次資料が見つからなかったり、わからなかったケースを紹介する。

まずは1964年10月16日に起きたオルガ・ワースの事件である。このケースでは車の中で「突然燃え出した」と言われているが、肝心の一次資料はわからなかった。しかし伝説のネタ元はわかった。

それはチャールズ・バーリッツが書いた『Charles Berlitz's World of the Incredible but True』という本である。他の事例と、ネタ元が創作記事をよく書くバーリッツだということを考えれば、伝説どおりだという可能性はかなり低いことが予想される。


次は1998年8月24日にオーストラリアのシドニーで起きた事件である。犠牲者はアグネス・フィリップス。このケースも車の中で「突然燃え出した」と言われている。
調べてみると、奇現象専門誌として有名な『ForteanTimes』が、このケースでは引用されていることがわかった。

では、この雑誌は何を元に記事を書いたのか?それはオーストラリアの日刊紙『シドニー・デイリー・テレグラフ』と、中国の『South China Morning Post』紙であった。

さっそく両紙のサイトでアグネス・フィリップスに関する過去記事を探したが、残念ながら見つからなかった。おそらく、時間が経ってしまっているからだろう。このケースに関しては、今後も継続して調べるつもりだ。


・1982年8月にシカゴで起きた事件

最後はシカゴで起きた事件である。犠牲者は女性だが、氏名・住所・年齢は不詳。
この女性は1982年8月5日の朝、道路を歩いていて、「警察官の証言では、突然バッと燃え出した」という。また、ある証言者は「この女性は燃えながら倒れこんだ」と証言している。SHCの決定的証拠と言われることもある。

しかし、実際には解剖検査の結果、女性は燃える前に既に死亡していたことが判明した。またシカゴ市警の鑑識で、女性の衣服から炭化水素の燃焼促進剤の痕跡が見つかった。このケースは人体発火現象の決定的証拠などではなく、殺人事件だったのである。