クレバー・ハンス


伝説 1891年、デンマークでドイツ人のウィリアム・フォン・オステンが飼っていた「ハンス」という名の馬が、高度な知性を持つとして有名になった。

観衆に囲まれているハンスハンスは、質問者が問題を出すと正解の数だけ床を脚で叩くという方法で、見事に数学の問題を解いたり、和音に関する音楽の問題にも答えることができた。
1904年には、哲学者であり心理学者でもあったカール・シュトゥンフ教授を委員長とする調査委員会によって調べられ、トリックの可能性は全くないという結論も出されている。

つまり正真正銘、馬自身が数学の問題を解いて答えを出していたのである。このことから人は、ハンスのことを「クレバー(Clever/賢い)・ハンス」と呼ぶようになった。

レディ・ワンダー一方で、同じく超常的な力を持つと言われていた馬に、レディ・ワンダーがいる。レディはアメリカ・バージニア州リッチモンドに住んでいたクラウディア・フォンダ夫人が飼っていた愛馬である。

記録によると、数字が書かれたキーボードや、アルファベットが書かれた紙を使って質問に答えることができたという。そのため1927年には、超能力研究の研究者として有名なデューク大学のジョセフ・ライン博士とウィリアム・マクドゥーガル博士によって調査され、レディは超能力を使って人の心を読むことができる馬だと認定されている。


【写真引用元】
『Wikipedia:Clever Hans』
(http://en.wikipedia.org/wiki/Clever_Hans)
『Index of Lady Wonder Items』
(http://richmondthenandnow.com/Lady-Wonder-Index.html)

 


 

謎解き 伝説で紹介したハンスとレディは、超常的な力を持つ動物の例として海外などではよく紹介される馬である。その際にはよく、「科学者によって調査されたがイカサマや勘違いの可能性はないという結論が出された」と紹介されることも多い。

確かに科学者によって調査され、そういった結論が出されたことは事実であるが、話はそれで終わりなのだろうか? いや、そんなことはない。2つの事例とも、その後に話の続きがあるのである。


クレバー・ハンスの真相

ハンスについては、伝説でも紹介したとおり、1904年に哲学者で心理学者でもあったカール・シュテゥンフ教授を委員長とする、動物学者、馬学者、心理学者による調査委員会によって調べられたが、トリックの可能性は全くないとされた。

ところがその後、アルバート・モール博士による調査で、ハンスは飼い主であるウィリアム・フォン・オステンの動きを追って正解を出していることが指摘された。

また1907年には、シュテゥンフ教授の学生であった心理学者のオスカー・フングストによる再調査で、ハンスは自分で問題を解いているのではなく、質問者の動きを読んで正解を出しているという調査結果も出されている。

フングストは調査に際して、問題を一枚一枚紙に書いて用意し、問題を出すときはハンスにだけ見せるという方法を用いた。つまり質問者を含めて、現場に居合わせた観衆には問題を事前に見せないようにしたのである。

するとどうだろう。あれだけ簡単に数学の問題を解くことができたハンスが、彼以外の現場に居合わせた人たちに質問を事前に見せないようにした途端、「1+1」といった初歩の問題すら解けなくなってしまったのである。

これは、ハンスが自分で考えて答えを出していたのではなく、質問を事前に知り、同時にその答えも知っていた現場の人間の動きを見て答えを出していたことを示している。その動きとは、意図的なものではなく、ほとんどは無意識のもので、多くは正解を期待するあまりわずかに頭部を動かしたりといった微細な体の動きである。

ハンスは質問者が質問を出すと、とりあえず床を叩き始める。すると、答えを知っている質問者が正解の打数をハンスが打ち終えた時、「ここで終わるはずだ」、あるいは「ここで終わってほしい」といった願望(※注1)などから、無意識に出す微細な体の動き(※注2)を逃さずとらえ、その変化があったところで床を打つことを止めるのである。(そしてご褒美として餌がもらえる)

【※注1】 この現象を「予期意向」と呼ぶ。 予め(あらかじめ)期待した 意向のこと。
【※注2】 この現象は「不覚筋動」という。本人には自覚がない (無意識的な)筋肉の動きことで、こっくりさんや、ダウジングもこの現象が関係している。


そのため質問者や現場に居合わせた人間が答えを事前に知らない状況では、その微細な動きをとらえることが出来ず、簡単な問題にも正解が出せなくなってしまうのだ。

なおフングストは、この「人の動きを読んでいる」という説を確かめるため、質問を出す際に意図的に微細な動きを出して、ハンスから任意の答えを引き出すことにも成功している。やはりハンスは、自分で正解を考えていたのではなく、人の動きを読んでいたのである。(※注3)

【※注3】 この事件をキッカケに、「クレバー・ハンス効果」(Clever Hans Effect)と名付けられる心理現象が発見された。これは動物を用いた実験で人間の関係者または研究者が、潜在意識下で仮説を立証することが望まれていた場合、振舞いを動物に伝えてしまう現象である。


レディ・ワンダーの真相

続いてはレディ・ワンダーのケース。レディは、アメリカ・バージニア州リッチモンドに住んでいたクラウディア・フォンダ夫人が飼っていた馬で、長年、地元のバージニア州リッチモンドでは、「人の心を読むサイキック・ホース」として観光の目玉となっていた。

この馬はハンスと違い、数学に関する問題だけでなく、他のほとんどどんな問題にも答えることが出来たという。(回答の際には特別製の馬用タイプライターを使って言葉を綴ったり、番号を示したりした)

話題はすぐに広がり、1927年には超能力研究の研究者として有名なデューク大学のジョセフ・ライン博士とウィリアム・マクドゥーガル博士によって調査され、超能力を持つ馬として認定証まで発行されている。

またライン博士は、『Journal of Abnormal & Social Psychology』(異常心理学と社会心理学誌)に、「レディ・ワンダーはテレパシーに反応し、ある程度の超能力を持っているようだ」と結論する論文まで発表している。

博士の調査では、質問者であるフォンダ夫人が答えを知らない場合でもレディは正解を答えることができたため、「クレバー・ハンス効果」の影響はないとされた。そしてこのことから、長らくこのケースは馬が超能力を持つ証拠とされていた。

ところが・・・1956年にある一人の懐疑論者が行った調査によって、この証拠は覆されることになる。

その懐疑論者の名はミルボーン・クリストファー。本職はプロのマジシャンで、ハリー・フーディニが初代会長を務めたアメリカ奇術師協会(SAM)の会長を務め、ロンドンのマジック協会の副会長も務めるほどの腕前の持ち主でもあった。そして同時に超常現象の真相調査にも強い興味を示した人物である。

クリストファーはまず、自分がマジシャンであることは知らせずにフォンダ夫人の元を訪れた。夫人がレディの超能力パフォーマンス(もちろん金を取る)を見せる際は、ライン博士に見せた時から30年間変わらず同じ方法を用いたが、その方法というのが「事前に答えを紙に書く」というものだった。

そのため、クリストファーはここに何かトリックがあるのではないかと考えたのだ。

そこで彼は、この紙に答えを書く際に渡される鉛筆が長いことに注目し、マジックの読心術で使うトリックの1つを用いているのではないかと推理。フォンダ夫人を引っ掛ける逆トリックを考案した。

紙に鉛筆で答えを書く際、本当は「3」と書いているのにもかかわらず、鉛筆の動きは「8」と書いているように見せかけたのである。(つまりこのトリックは、紙に書く際の鉛筆の動きを読むというもの)

もしレディが自分で考えるなり、テレパシーなどの超能力を使っているなりしていたのであれば、鉛筆の動きなどとは関係なく正しく「3」と答えられたはずである。
しかし実際は違った。レディが出した答えは、「3」ではなく「8」だったのである。

このことから、質問者のフォンダ夫人が答えを知らないはずの状況でも正しく答えを出せる、という長年の謎も解けた。実は「知らなかった」のではなく、事前に紙に答えを書かせる際の鉛筆の動きをフォンダ夫人が読んでいたのだ。つまり答えを知っていたのである。

あとは秘かに知ったその答えを、フォンダ夫人がいつも使っていた馬用の小さな鞭を用いてレディ・ワンダーに合図を送り(※注4)、レディがそれに応じて答えれば、フォンダ夫人が30年間、金を取って見世物にしていた超能力パフォーマンスの出来上がりとなる。こうして謎は解かれたのである。

【※注4】 夫人が鞭を使って秘かに合図を送っていたことは、ミルボーン・クリストファーの他に、記者のレスリー・リーバーも見破っている。

(記事公開日:2006年10月4日)

【参考資料】