北欧最強の超能力者「ヨルゲン・グスタフソン」

伝説

2006年12月25日、テレビ朝日で放送された「新TVのチカラ スペシャル」にて驚きの結果が放送された。岩手県盛岡市で失踪していた25歳女性の遺体が、番組で起用した超能力者の透視ポイントからわずか15メートルの地点で見つかったのである。

この番組で事件を担当したのは、「北欧最強の超能力者」と呼ばれるヨルゲン・グスタフソン。彼は以前から「TVのチカラ」の依頼により、岩手県盛岡市で失踪していた女性の行方を透視し、数々のキーワードを的中させていた。

やはり番組でも再三言われていたとおり、北欧最強の超能力者であるヨルゲンは、この事件を「完全透視」していたのである。(以下、謎解きに続く)

謎解き

ヨルゲンの透視の真相については、都合良く編集されている遺体発見後の放送内容だけを見ていてはわからない。もともと彼の透視は遺体が発見される前の2006年8月14日の放送で扱われているからだ。

実は、こちらの放送を詳しく検証すると、とても「完全透視」などと呼べる代物ではなかったことがわかってくる

ヨルゲンは2016年2月14日に、久しぶりに日本の番組に出演。その際、盛岡市の事件が透視的中例として取り上げられた。

失踪事件の経緯

まずは、前提となるこの失踪事件の経緯について説明しておきたい。

事件が起きたのは2005年12月15日の夕方。場所は岩手県盛岡市。当時25歳の女性(以下、Sさん)が、家族に「ストッキングを買ってくる」と言って自宅から出かけたまま、行方がわからなくなった。

家族によれば、Sさんは鬱状態から過去に自殺未遂をしており、失踪の数日前には「死にたい」と漏らしていたという。また自宅からは睡眠薬とウィスキーが持ち出されていたことから、自殺の可能性が考えられた。

けれども生存の望みは捨てきれない。そこで「TVのチカラ」に依頼し公開捜査を行うことに。超能力者捜査はその最後の手段として登場した。

ヨルゲンの透視内容

ここからは2006年8月14日に放送されたヨルゲンの透視内容を実際に見ていこう。番組で彼が最初に透視したのは次のような内容だった。

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ヨルゲンの透視によれば、この崖からSさんは足を踏み外して転落したという。下は番組の再現VTRで使われた転落時のイメージ。断崖絶壁から落ちていくようだ。

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そして他に「青いトラック」「so・to」(そっと、卒倒、外など)というキーワードを追加。

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「TVのチカラ」(テレビ朝日、2006年8月14日放送分)より

総合すると、上のようなキーワードが手がかりになるという。はたしてSさんは発見されるのか。番組ではヨルゲンを日本に招き、透視と符合する場所を探すことになった。

全部カットされたシーン

来日したヨルゲンが最初に向かったのは、Sさんの自宅から北東に20キロほどの場所にある岩洞湖。ここでは「水」というキーワードが強く意識されたものの、他のキーワードとの相性が悪く、あえなく断念。

その後、ホテルに戻ったヨルゲンは、突然、次のように話し出す。

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彼が言い出したのはスウェーデンでの透視の時と同様、転落死の可能性だった。実はスウェーデンで番組スタッフと最初に会った際、すぐに言い出したのも転落死を示唆するものだった。ヨルゲンはかなり重要視していたことがわかる。

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スタッフと会ってすぐ、いきなり頭をおさえ、「とても痛い」と言い出すヨルゲン。
(「TVのチカラ」テレビ朝日、2006年8月14日放送分より)

ところがこの一連の転落死を示唆する場面、Sさんの遺体発見後に放送された2006年12月25日の番組では、全部カットされていた。

その理由はSさんの遺体が発見された現場が、ゆるやかな山林で、崖などなかったからである。もちろん転落死などしておらず、Sさんは林の中で横たわった状態で発見された。死因は凍死だと考えられている。(失踪当日の夜は雪)

つまり、この時点で透視は大きく外れていたことになる。しかし、これから見ていくように、ヨルゲンはこの「崖からの転落死」を最後まで主張し続けるのである。

遺体の15メートル横を通りながら全く気づかない超能力者

番組では、この後、Sさんの自宅をヨルゲンが訪問。自宅からSさんの足取りを追うことになった。ヨルゲンが目指すのは、崖がある宗教的な場所。最終的にたどり着いたのは、自宅から1.7キロほど離れた場所にある「盛岡大仏」だった。

実は、Sさんの遺体が発見されたのは、その途中の道の横にあった山林である。ヨルゲンは遺体発見現場の近くを通っていたのだ。

盛岡大仏のある山の方へ行く場合、最初はその道を通って街道に出るのが一番近い。

ところがこの千載一遇の大きなチャンスを彼はまったく活かせない。山林の方を見向きもせず、完全にスルーしてしまうのだ。遺体発見前の2006年8月14日の放送で現場のふもとが映ったのは、わずか2秒である。

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「TVのチカラ」(テレビ朝日、2006年8月14日放送分)より

上の画像の左手側が遺体発見現場の山林。ヨルゲンは、右前方にあった青いトラックに気を取られて、左手側にはまったく注意が向かない。

ちなみにキーワードにもあった「青いトラック」は、ここでは清掃車などに使われる車だった。時間帯が合えば、どこでもよく見かける車のひとつ。番組でも、「目的地の途中にある」いくつかあるキーワードのひとつとしての扱いだった。

もちろん、その目的地とは、宗教的な場所にある「崖」である。

たどりついた目的地の崖

いよいよクライマックスが近づいてきた。番組では、その後、曲がりくねった山道、階段、宗教的な場所といったキーワードを次々とクリアしていく。そして最終的にたどりついたのが盛岡大仏近くで見つけた「崖」である。ヨルゲンは確信していた。

もうだいぶ離れちゃいましたけど……

もうだいぶ離れちゃいましたけど……

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遺体の現場を特定したと確信し、泣き出すヨルゲン。

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本来は見る者の涙を誘う場面。けれども彼が泣いている場所は、Sさんとはまったく何の関係もない場所。

もちろん、特定された崖は大捜索が行われた。

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途中にあった他の透視場所も捜索されたが……。
「TVのチカラ」(テレビ朝日、2006年8月14日放送分)より

当然のように手がかりは一切つかめずに終わった。これが遺体発見前に放送された2006年8月14日の放送内容である。はたして、これで透視は符合していたと言えるのだろうか。とてもそのような代物ではなかった、というのが番組を実際に視聴した私の率直な感想だった。

無かったことにされているもうひとつの透視

最後は、例によって無かったことにされているもうひとつの事件の透視について触れておきたい。ヨルゲンは遺体発見後の2006年12月25日の放送で、別の事件も担当していた。

その事件とは、「徳島父子放火殺人事件」。ヨルゲンが透視したのは、当時、この事件の容疑者として警察から指名手配されていた男の居場所だった。

ヨルゲンの透視によれば、男は一人でホームレスとして生活しているという。

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「新・TVのチカラ スペシャル」(テレビ朝日、2006年12月25日放送分)より

「新・TVのチカラ スペシャル」(テレビ朝日、2006年12月25日放送分)より

実際はどうだったのか。容疑者の男は、岡山市内の繁華街にあるマンションで女性と同居していた。(2012年に病死していたことが判明)

これが、「北欧最強の超能力者」「最高精度のシックスセンス」などとうたわれた超能力者の実力だった。

「TVのチカラ」によれば、Sさんの遺体発見後には母国スウェーデンで特番が放送され、ヨルゲンは一躍、時の人になったという。彼は透視を的中させ、遺体発見に導いたことになっているのだ。

超能力者の【伝説】がどのように作られるのか、よくわかる事例である。

【参考資料】

  • 「TVのチカラ」(テレビ朝日、2006年8月14日放送分)
  • 「新・TVのチカラ スペシャル」(テレビ朝日、2006年12月25日放送分)
  • 週プレNews「遺体で発見された『おい、小池!』は、なぜ11年も逃げ続けられたのか?」2012年11月2日 (http://exci.to/1R5rcal)
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