「スターチャイルド」は宇宙人と人間のハイブリッドか

伝説

近年、宇宙人と人間をかけあわせたハイブリッドだという頭蓋骨が話題になっている。ことの始まりはこうだ。

1930年代のある日のこと、アメリカの10代の少女が家族と共にメキシコへ旅行に行った。少女はカッパー・キャニオンにある小さな村を訪れた際、放置された鉱山トンネルを探検。すると中で奇妙な骸骨を発見した。

発見時の様子

発見時の様子(出典:「HISTORY OF THE STARCHILD SKULL」http://www.starchildproject.com/starchild-skull-history)

骸骨は仰向けの状態で、その腕には地中から出た別の腕の骨が巻き付いていた。少女は埋まっている骸骨も掘り出すと、骨を拾い集めて、いずれ戻ってくるときのために近くに隠した。

ところが、後日、その場所を洪水が襲い、骨の大部分が流されてしまう。現場からかろうじて回収できたのは2つの頭蓋骨のみ。それでも少女はその頭蓋骨をアメリカのテキサス州にある自宅へ持ち帰り、生涯、大事に保管し続けた。

少女の死後、頭蓋骨はアメリカ人男性の手に渡り、その数年後には男性の妻が務める病院の看護師だったメラニー・ヤングの元へと渡っていった。頭蓋骨のひとつは非常に奇妙な形をしていたため、その正体を看護師のメラニーに突き止めてほしいと託したのだ。

スターチャイルドの頭蓋骨

スターチャイルドの頭蓋骨。顔の正面部分は破損している。
(出典:「The Starchild Project」http://www.starchildproject.com/)

しかし、彼女にはその奇妙な頭蓋骨の正体はわからなかった。そこで、この分野の権威である解剖学者のロイド・パイの元へ持ち込み、協力を要請。するとパイは頭蓋骨が非常に特殊なものであることを見抜いた。宇宙人と人間のハイブリッドではないかというのだ。

彼はこの頭蓋骨に「スター・チャイルド」と名付けた。そして自身の説を証明するため、1999年に「スター・チャイルド・プロジェクト」を始動。DNA解析をはじめとした様々な科学的調査を行っていった。

その結果、スター・チャイルドのDNAから母親は人間であることが判明した一方、父親は地球上のどの生物のDNAとも一致せず、宇宙人の可能性がきわめて高いことが判明。

さらに脳の容量は、通常の人間が平均1400立方センチなのに対し、スター・チャイルドはそれよりも多い1600立方センチであることがわかった。また頭蓋骨の目のくぼみ(眼窩、がんか)も通常よりかなり浅く、非常に特殊であることも判明。

これ以外にも通常とは違う様々な特徴が見つかっている。こうした異常な特徴を説明できるのは、スター・チャイルドが宇宙人と人間の間にできたハイブリッドだという説だけである。

現在、「スター・チャイルド・プロジェクト」ではすべてのDNAを検査する試みが行われている。真実が解明される日は近い。(以下、謎解きに続く)

謎解き

「宇宙人と人間のハイブリッド」だという頭蓋骨やミイラは、これまで世界中でいくつか報告されている。その中でもスター・チャイルドは最も有名なものかもしれない。

「スター・チャイルド・プロジェクト」と名付けられた計画も存在し、その公式サイトでは専門用語が飛び交って、何やらすごいことが進行中のように見える。

ところが調べてみると、そうした印象とは裏腹に、首を傾げたくなるような点もわかってきた。実はこのプロジェクトは、そのスタートから客観性に欠けていたのである。

残念だった船出

まず、現在、スター・チャイルドと呼ばれている頭蓋骨は、メキシコのカッパー・キャニオンのどこで発見されたのか具体的にはわかっていない。少女は1990年代に亡くなるまで、鉱山トンネルの場所や訪れた村の正確な名前など、具体的なことは何も教えなかったからだ。

頭蓋骨が発見された場所がわからなければ、その頭蓋骨が現場の土壌や環境からどんな影響を受けたのかもわからない。これらは明らかにされるべきだった。

また、最終的に調査を主導することになるロイド・パイについても残念なことがあった。彼には紹介するメディアによって、「解剖学者」、「人類学者」、「生物学者」など様々な肩書きがつけられているが、彼の本業はオカルト作家。科学者ではなかった。

さらにメラニーやパイ本人が語ることによれば、最初にメラニーがパイの元へスター・チャイルドを持ち込んだとき、パイはネバダ州ラフリンで開催されるUFO国際会議に出席するところだったという。

そこで彼は、スター・チャイルドをこの会議に持って行くことを提案。承諾を得て持ち込まれたスター・チャイルドは、500人近くいた参加者の間で話題となり、「頭蓋骨はグレイ(宇宙人の一種)の頭の形状に似ている」ということで満場一致の意見になったという。

のちに復元されたスター・チャイルドの顔

のちに復元されたスター・チャイルドの顔。(出典:「What is the Starchild Skull?」http://www.starchildproject.com/what-is-the-starchild-skull)

筋金入りの肯定派であるオカルト作家を「その道の権威」と考えてしまう所有者が、そのオカルト作家に相談し、これまた世界中からガチの肯定派がたくさん集まるUFO会議の場で意見を求めれば、「宇宙人に似ている」という結論になるのは必然だった。

そこに客観性はない。しかし、その結論を認めさせるために「スター・チャイルド・プロジェクト」は始動する。

最初は人間という結果が出ていたDNA検査

プロジェクトが始動した1999年、最初に行われたのがDNAの解析だった。解析を担当したのはカナダにあるブリティッシュ・コロンビア大学の法医歯科学研究所。

同研究所のデイヴィッド・スウィート博士ディーン・ヒルデブランド博士の報告によれば、頭蓋骨から染色体などが抽出され、スター・チャイルドの性別は男性で、人間であることが判明したという。

あれ? これで終わってしまうのだろうか……。もちろん、そうはならない。この結果はプロジェクトを主導するパイによって否定され、現在では「汚染によって間違った結果が出た」ということで片付けられている。

「人間」などという平凡な結果はあってはならないのかもしれない。2003年以降の再調査では大学によるDNA解析は行われなくなり、民間や匿名の機関によって、おなじみの「父親は宇宙人」という結果が出されるようになっていく。

しかしこれらの結果については、核DNAの抽出の難しさをいいことに「父親は宇宙人」という結論に飛躍しているという批判などがあり、まともな科学者からは支持されていない。

大きな頭は宇宙人の特徴?

それでも、スター・チャイルドには通常とは異なる特徴があるともいわれている。最もよくいわれるのは、脳の容量が平均よりも多い1600立方センチだという主張だ。

これについて、イギリス、ノース・ハートフォードシャー博物館の考古学者ケイス・マシューズは、人間の脳の容量は最少で1000~最大で1900立方センチの範囲内にあり、仮にスター・チャイルドが子どもであったとしても、あり得ない大きさではないと指摘している。

また、頭蓋骨の意図的な変形が行われていた可能性も指摘する。これは放射性炭素年代測定法によってスター・チャイルドが約900年前のものだと判明したことを受けたものだ。1100年当時、メキシコ北部には後期モゴロン文化が栄え、そこでは広く、子どもの頭蓋骨の意図的な変形が行われていたという。

頭の骨がやわらかい子どものうちに、板などを頭に巻き付け、徐々に頭の形を変えていく。

スター・チャイルドの後頭部が通常より平らになっているという主張については、こうした頭蓋変形の影響が考えられるという。

また、アメリカ、イェール医学大学院の神経科医スティーヴン・ノヴェラは、スター・チャイルドの大きな頭の特徴について、水頭症(すいとうしょう)の可能性も指摘する。

水頭症とは、脳を保護するため、脳を浮かせて覆うように存在している脳骨髄液(体液)が異常に多くなってしまう病気である。

水頭症の子ども

水頭症の子ども(出典:「Hydrocephalus」https://en.wikipedia.org/wiki/Hydrocephalus)

子どもがこの病気になると、まだ頭の骨の結合が弱いため、内側からの圧力によって頭が大きく膨らんでしまうことがある。ノヴェラによれば、スター・チャイルドはこの特徴に合致しており、水頭症で苦しんで亡くなった子どもの可能性が考えられるという。

もちろん、パイたちはこうした可能性を否定し、スター・チャイルドには説明不可能な特質があると主張する。

しかし、1999年にスターチャイルドの実物を調査した法医人類学者のビル・ロドリゲス博士は次のように述べている。(「都市伝説~超常現象を解明せよ!3~地球の先住者」ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルより)

頭蓋骨には、スターチャイルドの際だった特質などというものは何も見られません。人間の標準的な頭の骨の異形ですよ。以前にも見たことがあります。

また、眼窩(目の骨のくぼみ)が浅い特徴についても次のように述べる。

たとえ眼窩が浅くても、ものを見ることに支障はありません。視力を左右するのは眼窩の奥から出ている視神経だからです。基本的に頭の骨が形成される際は、眼窩の形を土台にして、形作られるものなんです。

けれども、こうした異形の説明もパイたちには届かない。

会社化したプロジェクトのゆくえ

「スター・チャイルド・プロジェクト」を主導してきたロイド・パイは、2013年にリンパ組織のガンによって67歳で亡くなった。

しかし同プロジェクトは同じ年に会社化されており、パイの亡き後も存続している。これまでには7億円の出資を求めて映画化の話が出たり、総額で約2,500万円もかかるというDNA解析の費用集めの話が出るなど、すっかりお金と切り離せないものになっている。

もはや「スター・チャイルド・プロジェクト」はビジネス。このビジネスを続けていくための唯一の方法は、「スター・チャイルドは宇宙人とのハイブリッドである」という調査結果を出し続けていくことしかない。

今後も“驚きの結果”は発表され続けるのではないだろうか。ビジネスとして成功させるために。

【参考資料】

  • 「The Starchild Project」(http://www.starchildproject.com/)
  • 「 Lloyd Pye’s Official Website」(http://www.lloydpye.com/)
  • 並木伸一郎『ムー的都市伝説』(学研、2015年)
  • 沖田しんじ「『スターチャイルド頭蓋骨』の謎とは? DNA鑑定で“非人間”、宇宙人とのハイブリッドか?」TOCANA(http://tocana.jp/2017/01/post_11891_entry.html)
  • 「世界の何だコレ!?ミステリー」(フジテレビ、2016年3月2日放送)
  • Steven Novella「The Starchild Project」(http://www.theness.com/index.php/the-starchild-project/)
  • Keith Fitzpatrick Matthews「The “Starchild skull”」
    (http://www.badarchaeology.com/extraterrestrials/the-starchild-skull/)
  • Brian Dunning「 SOME “STARCHILD” FEEDBACK」(http://www.skepticblog.org/2009/03/19/some-starchild-feedback/)
  • 「都市伝説~超常現象を解明せよ!3~地球の先住者」(ナショナル・ジオグラフィック・チャンネル、2011年3月26日放送)
  • 東海大学医学部脳神経外科「水頭症」
    (http://neurosurgery.med.u-tokai.ac.jp/edemiru/suitou/)
  • 吉岡郁夫『身体の文化人類学』(雄山閣、1991年)
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