ブックレビュー『疫病・災害と超古代史―神話や古史古伝における災禍との闘いから学ぶ』

『疫病・災害と超古代史』(文芸社)は、神話や聖書、古史古伝にみられる災害の記述に焦点をあて、それらがなぜ物語に取り入れられたのか、読み解いていく本(文庫)です。

扱われているのは、アトランティス伝説、ノアの方舟、出エジプト記、上記(うえつふみ)、竹内文書、富士宮下文書、契丹古伝(きったんこでん)、秀真伝(ほつまつたえ)、東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)など。

本書では、これらを個別に取り上げ、それぞれの内容、成立時の時代背景、作者の意図などを非常に丁寧に解説していきます。

正直、そこを丁寧にやりすぎて、各終盤の災害に関する考察が少なくってしまっている感はあります。

ですが、まず読者に伝えて情報を共有すべきは、その土台に関する部分であり、そこを手抜けば情報量が少ない本になってしまったでしょう。ページ数に限りがある文庫本であることも考えれば、致し方ないかと思います。

その分、前出の伝説や古史古伝についての解説は十分な量です。あまり詳しくご存知ない方はもちろん、すでにある程度ご存知の方でも、きっと参考になるのではないでしょうか。

たとえば私も、アトランティス伝説についてはそれなりに調べましたが、それでも本書の解説は十分参考になるものでした。

また、『上記』を元ネタにした古史古伝の顛末や、現在も多くの支持者を抱える『竹内文書』の来歴から真相まで、詳しい解説は随所に見られます。

さらに疫病や災害に関する考察部分では、そうしたものが過去に何度も人々を苦しめてきたことを浮き彫りにします。そして、人々はどう向き合い、折り合いをつけてきたのか。

疫病の世界的な流行に直面する現在において、そのような過去を知ることもまた無駄ではないはずです。

目次

第1章 災害と疫病で読み解く聖書・ギリシア神話

旧約聖書やギリシア神話では災害や疫病にどう立ち向かったか

プラトンは日米戦争とアメリカの滅亡に関して予言した?
オレイカルコス(オリハルコン)の正体は黄銅
陰謀論とも結びついた近代アトランティス学
塩の柱は、石の柱の起源説話の名残か
「出エジプト記」の災厄は、古代中東の自然災害を列挙したものか
『ティマイオス』でのパエトーンの災厄の解釈
トロイア戦争時にアカイア連合軍を襲った悪疫
アイギナの疫病を描写した『変身物語』

第2章 天変地異・予言で読み解く「古史古伝」

『上記』でウガヤフキアエズ朝の謎が解ける

古史古伝のウガヤフキアエズ朝の元ネタは『上記』
天皇一行をエサシまで導いた巨大な亀はUFOだった?
皇室の血統が異国に残るのを止めるために地震が起こされた?
第71代の御世の大地震がウガヤフキアエズ朝を崩壊させたか

災害から読み解く『竹内文書』

「木になる餅」はマナか
「万国土の海」は水害に悩まされた巨麿自身の記憶の反映か

災厄から読み解く『富士宮下文書』

皇室の祖神と中国神話の神農を同一視
戦争に備えた九州遷都と大地震による大和遷都
『神皇紀』と戦後の研究者たち
「不二阿祖山大神宮」の主張を検証する
『富士宮下文書』の富士山噴火記録の信憑性は?
富士山噴火や戦乱などに立ち向かった人々の物語

第3章 災害・疫病で読み解く「古史古伝」

天変地異で読み解く『契丹古伝』

浜名寛祐と『神頌叙伝』と『契丹古伝』
丹鶏出現の奇瑞と神頌を記した石
佐治芳彦や鹿島曻は「海漠象変」の謎をどう解いたか
『契丹古伝』の作者は清代後期の知日派文人か

疫病鎮めと病気治しで読み解く『秀真伝』

三輪山型神婚説話で、神が蛇の姿で現れるわけ
もともと歌道と神道の秘伝書として書かれた
『秀真伝』と近松『日本振袖始』の共通点
病気治しを教義とする新興宗教が依拠した「古典」だったか

津波から読み解く『東日流外三郡誌』

遮光器土偶の人気に便乗して、アラハバキのご神体に
「安東水軍が興国の大津波で壊滅」は根も葉もない作り話

ノストラダムスと予言獣――あとがきに代えて

レクタングル広告(大)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする