ゴリラとチンパンジーのハイブリッドUMA「ライオン・イーター」の正体

伝説

アフリカのコンゴにある深い森に、ゴリラとチンパンジーの異種交配によって生まれたハイブリッドUMAがいる。ライオンをも喰らう凶暴さから、ついた名前はライオン・イーター

ライオン・イーターの想像図

ライオン・イーターの想像図(イラスト提供:横山雅司)

動物カメラマンのカール・アンマンによれば、ライオン・イーターの体長は1.5~2メートルで、足の長さは平均的なゴリラより2センチ大きいという。

一方でゴリラのように地上に巣をつくるが、ほかの類人猿にはみられない特徴として、夜になると月に向かって大きなうなり声をあげるのだという。

物的証拠もある。類人猿に詳しい生物学者のシェリー・ウィリアムズは、ライオン・イーターの写真やビデオを撮影。糞も採取し、アメリカのオハマ動物園の遺伝子研究所に送って分析が行われた。

その結果、まったくの新種であることが判明したのである。

オカルト作家の山口敏太郎氏によれば、ライオン・イーターはゴリラのパワーチンパンジーの頭脳をあわせ持ったハイブリッドUMAになるのだという。

もともとゴリラとチンパンジーは感染症により絶滅の危機にあった。しかし、新たに誕生したライオン・イーターは感染症に強く、アフリカではその数をふやして繁殖中なのだという。(以下、謎解きに続く)

謎解き

ライオン・イーターの話は、コンゴでささやかれていた噂話が発端となっている。それに2003年、もっともらしい専門家の話が加わり、拡散。

本当はその後に進展があったものの、昔のヨタ話だけが繰り返されている状況だ。

このままでは、いつまで経っても真相が知られることはない。

そこで、ここからは「ライオン・イーター」の話が生まれるキッカケとヨタ話が広まる経緯、そしてその正体について詳しく解説していきたい。

3人の主要人物

まず、ライオン・イーターの話をするうえで欠かせない、3人の主要人物がいる。

ひとりはコンゴの類人猿に魅せられ、ことの発端をつくった写真家のカール・アンマン。【伝説】ではライオン・イーターの存在を肯定する人物として描かれるが、実際はその逆である。

彼は後述するように、ヨタ話を軽々しく信じることなく、一歩引いて距離をとってきた。

カール・アンマン

カール・アンマン
(出典:「Karl Ammann – exposing the grim reality of online ivory trading」)

もうひとりは、2003年にヨタ話を積極的に広めていった心理学者の(生物学者ではない)シェリー・ウィリアムズ。コンゴで地道に調査を続ける研究者たちからは、すこぶる評判が悪い扇動家である。

シェリー・ウィリアムズ

シェリー・ウィリアムズ
(出典:「Zoo testing DNA of mystery apes」)

そしてもうひとりは、長くコンゴで地道に研究を続け、ライオン・イーターの謎を解いた若き研究者、クリーブ・ヒックス。日本ではまったく名前が登場しないものの、ライオン・イーターの正体を語るうえで、欠かすことのできない重要な人物である。

クリーブ・ヒックス

クリーブ・ヒックス
(出典:「Widespread tool-using chimp culture discovered in Democratic Republic of Congo」)

以上、この3人の役割を念頭に置いて、ここからの話を読み進めていただきたい。

はじまりは奇妙な頭蓋骨

1990年代半ばのこと。カメラマンで環境保護活動家のカール・アンマンは、ベルギーのテルビュレンにある王立中央アフリカ博物館を訪れた。

その博物館には、三つの奇妙な頭蓋骨が眠っていた。由来が書かれた文書によれば、1898年にコンゴのベルギー人入植者が手に入れたゴリラの頭蓋骨だという。

よくUMA本などで書かれている、「ゴリラは20世紀まで未確認動物だった」という話は誤り。最初にゴリラの頭骨が収集され、種として記載されたのは19世紀半ばの1846年。動物園での公開は1850年代には行われていた。ただし、ゴリラは危険で獰猛という誤ったイメージのせいで、その後100年ほどは不遇の時代が続いた。

その頭蓋骨を見たアンマンは疑問に思った。発見場所とされるコンゴのビリ・ウエレ地区ではゴリラの生息が確認されていなかったからである。

もしかしたら、まだ知られていない新種の類人猿がいるのか? はたまた、未確認のゴリラが生息しているのか?

1996年、アンマンは疑問を解決するべく、コンゴにある「ビリの森」を訪れた。ここは野生のサルが数多く生息する場所で、地元のハンターたちの間では奇妙な噂がささやかれる場所でもあった。

直立する大型の類人猿がいるというのである。その類人猿は毒矢を受けてもへっちゃらで、夜には月に向かって大きなうなり声をあげるのだという。

さらに類人猿は2種類いるとされ、それぞれに名前があった。ひとつは「木を打ち倒すもの」という意味のツリー・ビーター。もうひとつは「ライオンを殺すもの」という意味のライオン・キラーである。

ライオン・イーターという名前は、ほぼ日本でしか使われていない。海外ではライオン・キラー、もしくは後述するようにミステリー・エイプ(謎の類人猿)がよく使われる。

アンマンは森に分け入り、調査を敢行した。そして新たな頭蓋骨を発見するに至る。

その頭蓋骨は全体としてチンパンジーの特徴を持っていたが、頭のてっぺんがゴリラのように少しとんがっているという特徴も持っていた。

これは新種なのか? さらに調査を続行しようとしたものの、ここでコンゴの内戦が激化。やむなく撤退することになってしまう。

それから数年間は調査が不可能になったが、2002年、その内戦が落ち着いたため、アンマンは調査チームを結成。再び、ビリの森へ戻ることができた。

ところが、その後、事態は困った方向へ進んでしまう。調査チームに参加していた一人が、注目を集めようと、センセーショナルな言説をメディアでまき散らすのである。

メディアを通じたヨタ話の拡散

2003年、ビリの森に住むという「謎の類人猿」の話がメディアをにぎわした。それは前述の噂のほかに、「ゴリラとチンパンジーのハイブリッド」という新たな設定も加わり、DNAの分析も進行中という話だった。

この話をまき散らした人物こそ、シェリー・ウィリアムズである。彼女はナショナル・ジオグラフィックから200万円以上の資金援助を受けて、アンマンの調査チームに参加していた。

実験心理学の博士号は持っていたものの、類人猿に詳しい生物学者ではなかったが、メディアでは「ビリの森を訪れた最初の科学者」という触れ込みで、彼女の話が紹介された。

けれども、現地で地道に調査をする研究者たちのなかで、「ゴリラとチンパンジーのハイブリッド」などと真面目に考えている者はいなかった。

しかし、そうした話はメディア受けが悪く、一般の読者には届かない。

真面目な研究者は色眼鏡で見られるようにもなり、からかいの対象となることもあった。カール・アンマンのもとには、パグの頭がついたチンパンジーと、ゴリラの頭がついたアザラシの合成写真が送られてきたこともあったという。

こうした事態を招く原因となったウィリアムズに対し、アンマンは次のように述べている。

私たちはウィリアムズ博士の専門家らしくない態度と、彼女の非科学的で偽りの報道発表にまったく失望しています。

アンマンのチームの調査では、「月に向かって吠えるライオン・キラー(ツリー・ビーター)」の話はただの噂であることがわかった。

2002年の調査では、ほかの野生動物を除くと、チンパンジーしか見つかっていない。

オマハの動物園で行われたDNAの分析結果も、東アフリカに生息するチンパンジーというものだった。

日本では「オハマ動物園」と誤って書かれるが、正しくは「オマハ」(Omaha)。アメリカのネブラスカ州にある都市で、ここの「ヘンリー・ドーリー動物園&水族館」で分析が行われた。

ライオン・イーターの正体

アンマンはウィリアムズと決別した。そして代わりに新たな研究メンバーとして加わったのが、クリーブ・ヒックスである。

当時はオランダのアムステルダム大学に所属。現在はポーランドのワルシャワ大学の准教授で、チンパンジーの研究をしている。

ヒックスは2004年からビリの森にて観察を続けた。ときに森で眠り、マラリアには25回感染するなどの苦労もしながら、地道に情報を収集。

その結果、ついに謎の類人猿(ライオン・キラー、ライオン・イーター)とされたサルの鮮明な写真を撮ることに成功する。

「ライオン・イーター」の正体
(出典:「In Search of the Mystery Apes of Bili Forest」)

ライオン・イーターの正体は、ただのチンパンジーだった

ヒックスによる現地での長期にわたる調査によれば、ビリの森に生息するのはチンパンジーで、ゴリラはいないのだという。もちろん、両種のハイブリッド生物などもいない。

また、アンマンが見つけたゴリラのような特徴を少し持つ頭蓋骨についても、チンパンジーが持つ個体差だという。

人間にも人によって体の大きさや骨格の違いがあるように、野生で暮らすチンパンジーにも個体差がある。画一化されたコピー・ロボットではないのだから、多少の違いはあって当然なのだという。

さらにDNAサンプルの分析も、三つのラボに送られて行われている。その結果は、謎の類人猿とされたものが新種ではなく、実際はチンパンジーであるというものだった。

結局、「ライオン・イーター」は存在しなかったのである。

ビリの森のチンパンジーが数を減らしているのは感染症が原因ではなく、人間による密猟が主な原因。コンゴでは食肉やペットにするための密猟が横行しており、「ライオン・イーター」のような強靱さを持たない現実のチンパンジーたちは、大きな危機に直面している。そのため現地では保護活動が行われている。

ちなみに長年の観察の結果、ビリの森のチンパンジーには、独自の文化と呼べるようなものがあることがわかった。

通常は木の上に巣がつくられるのに、ビリの森では、チンパンジーの巣の約5分の1が地上につくられるのである。これは、ゴリラがつくる巣に似ている。

また、アフリカのチンパンジーのなかでは最も長い木の枝の道具を器用に使い、アリを捕食する。さらに森で死んだヒョウの死体があれば、それを食べることもあるという。

ライオンを殺す謎の類人猿の噂は、こうした独自の文化がもとになって生まれたのかもしれない。

【参考資料】

  • 岡田光雄「『未確認生物』でオカルト人気再燃の兆し!真実は10%あればいい」『ダイヤモンド・オンライン』(https://diamond.jp/articles/-/250064)
  • 山口敏太郎・監修『あなたの知らない本当にいる!!! 未確認生物UMAの正体 完全版』(コアマガジン)
  • 山口敏太郎「ハイブリット生物、ライオンを喰う類人猿『ライオン・イーター』」『リアルライブ』(https://npn.co.jp/article/detail/53085765)
  • 梅田小太郎「ライオンを襲うUMA“ライオンイーター”は異種交配で誕生した?」『週プレNEWS』(https://wpb.shueisha.co.jp/news/society/2015/09/19/53632/)
  • 山極寿一『ゴリラとヒトの間』(講談社)
  • ヘルベルト・ヴェント『世界動物発見史』(平凡社)
  • Stephan Faris「Lost Apes Of The Congo」『TIME Magazine』
    (http://content.time.com/time/magazine/article/0,9171,1015856-1,00.html)
  • Karl Ammann「The Bondo Mystery Ape」(https://web.archive.org/web/20200214005012/http://karlammann.com/bondo.html)
  • Barry Bedlan「Zoo testing DNA of mystery apes」『NBC News』(http://www.nbcnews.com/id/3088063/ns/technology_and_science-science/t/zoo-testing-dna-mystery-apes)
  • 「Mystery apes are chubby chimps, zoologists find」『ABC News Online』(http://www.abc.net.au/science/news/scitech/SciTechRepublish_1674285.htm)
  • Brian Dunning「The Bili Ape of the Congo」『Skeptoid』(https://skeptoid.com/episodes/4689)
  • Richard Engel and Aggelos Petropoulos「In Search of the Mystery Apes of Bili Forest」『NBC News』(https://www.nbcnews.com/dateline/search-mystery-apes-bili-forest-n568751)
  • James Randerson「Found: the giant lion-eating chimps of the magic forest」『The Guardian』(https://www.theguardian.com/science/2007/jul/14/conservation.internationalnews)
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