超常現象の謎解き

大人気ドラマのモデルになった実在の霊能者「アリソン・デュボア」

伝説

アメリカのアリゾナ州に、アリソン・デュボアという霊能者がいる。彼女は2005年から2011年にかけて全米で放送され、大人気となったドラマ「ミディアム 霊能捜査官アリソン・デュボア」(ミディアムは霊媒という意味)のモデルになった人物である。

アリソン・デュボア

アリソン・デュボア
出典:「Medium DVD Complete Series, Patricia Arquette Allison Dubois」(https://dvdbash.com/2012/03/02/medium-dvd-complete-series-patricia-arquette-allison-dubois/)

このドラマの主人公の名前は「アリソン・デュボア」。そう、彼女が実名で登場するのだ。物語は霊能力を持つアリソンが、検事局で相談役として働きながら難事件を解決に導いていくというものである。

ドラマで扱われる話のほとんどはフィクションではない。実際にアリソンも霊能捜査官として数々の難事件を解決している。

たとえば1999年に起きたオパール・ジェニング誘拐事件。これは1999年3月にテキサス州サギノーで、当時6歳の少女オパール・ジェニングが何者かに誘拐されたという事件である。

オパール・ジェニング
出典:「Opal.page」(http://www.geocities.ws/littlemissingangels/Opal.html)

この事件では、犯人の特定もできず少女の行方もわからず捜査は難航。そこで進展がない状況を見かねたアリソンが、捜査を担当していたテキサス・レンジャーズ(州警備隊)に協力を申し出た。

すると当局から呼び出しがあり、彼女は犯人を霊視することに。数日後、アリソンの情報をもとに犯人の逮捕に至ったのである。

ところが逮捕後にウソばかりつく容疑者に翻弄され、肝心の少女の居場所は特定できなかった。そこで当局はアリソンに再び霊視を依頼。彼女は容疑者が少女を連れ回したとされる場所を巡ると、そのうちのひとつの森で少女の遺体が埋められていると霊視。

見事、その場所からは少女の遺体が発見され、事件は解決に至った。

この他にもアリソンが解決した事件は多い。有名なのは、2005年に起きたベースライン・キラー事件シリアル・シューター事件である。

これら2つの事件は、アリソンの地元、アリゾナ州フェニックス近郊で同時期に起きた。ベースライン・キラーは2005年8月にベースライン通りでの事件に端を発する、連続強姦殺人犯の通称である。

シリアル・シューターの方は、同じく2005年の深夜に、車から無差別に銃で人や動物を射殺した凶悪犯の通称である。

アリソンは、この凶悪犯たちによって地元で起こされた事件に怒りを感じ、すぐに捜査に乗り出した。するとこれらの犯人たちも、アリソンの持ち前の霊能力によって見事逮捕された。地元の平和はアリソンによって守られたのである。

2人いたシリアル・シューターの1人、デール・ハウズナー。
出典:「Murderpedia」(http://murderpedia.org/male.H/h/hausner-dale-photos.htm)

アリソンがこうした事件の捜査に関わったり、ドラマのモデルになったりして注目されるきっかけになったのは、アリゾナ大学での実験だといわれている。

これはアリゾナ大学のゲーリー・シュワルツ博士が優秀な霊能者たちを集めて研究したもので、アリソンは博士が集めたエリート霊能力者のドリーム・チームで最年少のメンバーだったという。

彼女の能力はそのドリーム・チームの中でも突出しており、常に80パーセント近くのスコアを上げていた。博士はアリソンのことを「真のサイキック(超常的な力を持つ人)」だと評している。

大学の研究者からも科学的なお墨付きが与えられ、検事局では数々の難事件を解決に導いた凄腕の霊能捜査官。彼女こそ、本物の霊能者に違いないのである。(以下、謎解きに続く)

謎解き

必ずしも周囲からの理解を得られない苦悩も描いた「ミディアム」は私も好きなドラマのひとつ。ファースト・シーズンの第1話冒頭で流れた次のテロップが印象的だった。

「“アリソン”は存在する」「確かに……」

これは本当で、アリソンという名前の人物は実在する。そのアリソン・デュボアは全米で最も有名な霊能者だという。7年間も大人気ドラマの主人公のモデルになったのだから、当然といえば当然かもしれない。

ドラマで取り上げられたエピソードも、実話をもとにしているという。日本のテレビでも2015年と2016年に取り上げられ、彼女がこれまでに解決したとされる事件が華々しく紹介された。

しかし、これらの話が本当かどうか調べてみたところ、事実はずいぶん違うようだということがわかってきた。以下で具体的に見てみよう。

酷評されているシュワルツ博士の研究

アリソンの霊能力については、アリゾナ大学のゲーリー・シュワルツ博士による研究で科学的に認められたとされている。

しかし博士が行った研究に対しては、その内容を精査した超常現象研究の第一人者であるオレゴン大学の心理学者レイ・ハイマンらによって酷評されている。

博士の実験内容は穴が多く杜撰すぎて、とても科学的な研究とは呼べないという。穴だらけの実験で、いくらハイスコアを出しても無意味である。

そこでこうした霊能者を日頃から検証しているアメリカの元マジシャン、ジェイムズ・ランディは、自らが公募している「100万ドル・パラノーマル・チャレンジ」という企画にアリソンを招くことにした。

この企画は、実験者と被験者双方が合意のもとで実験の条件を決め、その条件をクリアしたら本物と認められて賞金の1億円が贈られるというものである。

シュワルツ博士の実験がまともなものであったなら、ランディの実験をクリアするのも楽勝のはずだった。ところがアリソンは、このランディの申し出を断った。彼女は「100万ドル・パラノーマル・チャレンジ」を受けなかったのである。

穴のない実験ではクリアできないと思ったのだろうか。残念だ。

オパール・ジェニング誘拐事件の真相

この事件はアリソンのお気に入りのようで、ドラマでも最初に取り上げられたエピソードである。日本のテレビに登場した際も、実績をアピールする再現VTRの最初に取り上げられたのが、この事件だった。

ドラマでは当初、刑事たちはアリソンのことを見くびって信用せず、ぞんざいな扱いをしていた。ところが次々と事実を言い当てていくアリソンの力を目の当たりにし、最後には彼女の力を認め、素直に感謝するに至る。思い出しただけでも感動するシーンがある。

しかし私は、日本のテレビ番組の方で再現VTRを見た際、引っ掛かることがあった。画面の右上に、「本人の証言による再現」とテロップが出ていたからだ。

もしかして、テキサス・レンジャーズに協力して事件を解決に導いたという話は、アリソンが言っているだけではないのか。当の刑事たちはアリソンの話を認めているのか。

調べてみると、その答えがあった。次に引用するのは、アリソンについて質問を受けたテキサス・レンジャーズの報道官、トム・ヴィンガーのコメントである。

テキサス・レンジャーズは、アリソン・デュボア、あるいは他のいかなるサイキックたちとも、一緒に働いたことはありません。

アリソンの話は事実ではないという。それもそのはずだった。再現VTRでは、アリソンが協力してからわずか数日で犯人が逮捕され、被害者の遺体も発見されたことになっていた。

ところが、実際は犯人のリチャード・リー・フランクスが逮捕されたのは1999年8月。対してオパールの遺体が発見されたのは2003年12月30日だった。アリソンの霊視によって遺体がすぐに発見されるというストーリーは成立しない。

残念ながら、アリソンがこの事件を見事解決に導いたという証拠は皆無である。

ベースライン・キラー事件とシリアル・シューター事件の真相

この2つの事件は、同じ時期に、同じ地域で、異なる犯人による連続殺人が行われたという点で、史上稀にみる事件となっている。

しかも事件が始まった2005年は、アリソンがモデルになった「ミディアム」の放送がアメリカで始まった年である。地元で起きた凶悪事件なのだから、現実の彼女も事件解決に向けてさぞ大活躍したと思うだろう。私も最初はそう思った。

ところが現実は違った。そもそもベースライン・キラー事件は、2005年8月に始まり、2006年の6月の終わりまで続いた。犯人のマーク・ゴードーが逮捕されたのは2006年9月6日のことである。

その間、9人が殺害され、レイプも含めた被害者は全部で33人にものぼった。アリソンはこの連続強姦殺人犯に対してまったく無力だった。

彼女が事件発生中に霊視した犯人像は「長い髪を帽子に押し込んでいる」というものだったが、逮捕されたマーク・ゴードーは短髪だった。

短髪のマーク・ゴードー。
出典:「Murderpedia」(http://murderpedia.org/male.G/g/goudeau-mark-photos-1.htm)

さらにアリソンがフェニックス警察に協力を申し出た際の様子については、刑事のアンディ・ヒルが取材に応えている。

ヒルによれば、「デュボアは事件の捜査主任だったアレックス・フェメニアから情報を得ようとしているように思われた」という。だが、それはできなかった。続けてヒルは述べる。

彼女が示唆した唯一の情報は、容疑者が浮浪者でアリゾナ州を去っているという主張だったが、まったく正しくなかった。

彼女は役に立たなかったのだ。

これは、もうひとつのシリアル・シューター事件でも同じである。この事件も始まったのは2005年5月で、犯人が逮捕されたのは2006年の8月。犯人は1年以上も野放しだった。

その間に8人が殺され、18人が負傷し、動物も10頭が撃たれた。さらに2軒の店が放火されている。もうやりたい放題だ。

アリソンは犯人逮捕に結びつくような情報を提供できなかった。実際に犯人の逮捕に結びついたのは、生き残った被害者たちの証言だった(ベースライン・キラー事件も)。

先述のように2005年から2006年にかけては、「ミディアム」が放送され、ドラマの中ではアリソンが持ち前の霊能力で活躍していた頃である。しかし現実の世界では、史上稀に見る連続殺人事件が同時にアリソンのお膝元で起こり、彼女は何の役にも立っていなかった。

当時、フェニックスや近隣の街では多くの住民が凶悪な犯人に怯え、夜には出歩く人がほとんどいなくなっていたという。本来、もっとも実力を発揮するべきときに事件を解決することができなかったのは残念だった。

ジャッキー・ハートマン事件

最後に、もうひとつアリソンと関わりがある事件について紹介しておきたい。2007年1月に起きたジャッキー・ハートマン事件である。

この事件は、2007年1月にアリゾナ州ギルバートで、当時19歳のジャッキー・ハートマンの行方がわからなくなったというものである。

アリソンはジャッキーの家族の友人から助けを求められたという。彼女は次のように述べている。

私にとっての決め手はジャッキーのお父さんでした。

アリソンはニュースで父を見て、娘を愛している姿に心を打たれたのだそうだ。彼女は協力を申し出ると、霊視によって事件を解決に導いたとしている。

ところが、この話を地元紙の『フェニックス・ニュー・タイムズ』の記者が当の父親のデイヴ・ハートマンに尋ねてみた。すると、驚いたことにまったく知らなかったという。アリソンとは会ったこともなければ話したこともないというのだ。

もともとアリソンは、事件発生後にアメリカの人気番組「オプラ・ウィンフリー・ショー」に出演。カメラ・クルーを引き連れ、ジャッキーが最後に目撃されたガソリンスタンドなどを訪れて霊視をしていた。しかし犯人逮捕や遺体発見には至らなかった。

後に霊視内容を聞かされた父親は、アリソンの霊視は間違いだらけだと語っている。さらに子どもが行方不明になった両親に対するアドバイスについては次のように述べている。

最も良いのは大規模な捜索隊を結成することと、サイキックを避けることだ。

知らぬ間に、最愛の娘の死を霊能者に利用されていた父親の至言である。

なお、アリソンが話しているエピソードについては、他にも関係者から疑問の声が出ている。たとえば彼女が検事局のインターンだったと主張している当時、検事局に在籍していたアリゾナ州マリコパ群の元検事リック・ロムリーは、アリソンに会ったことは一度もないと言っている。

また10代の頃からの親友の死を予言していたというエピソードもあるが、これについては、その親友の妹からホラ話だと指摘されている。

どうやら現実のアリソンは、ドラマとは違うようだ。現実の世界では真のサイキックでもない限り、ドラマのように次々と事件を解決に導くことはできない。

残念ながら彼女が、その「真のサイキック」である可能性は限りなく低そうである。


【参考資料】

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