ヨルゲン・グスタフソン


伝説 2006年12月25日、テレビ朝日で放送された『新TVのチカラ スペシャル』にて、岩手県盛岡市で失踪していた25歳女性の遺体が、番組で起用した超能力者の透視ポイントからわずか15メートルの地点で見つかるという、驚きの結末を迎えたことが放送された。

この番組で事件を担当したのは、「北欧最強の超能力者」と呼ばれるヨルゲン・グスタフソン。彼は以前『TVのチカラ』の依頼により、岩手県盛岡市で失踪していた女性の行方を透視し、数々のキーワードを的中させていた。

そして最終的には、ヨルゲンが透視したポイントから、わずか15メートルの場所で白骨化した女性の遺体が地元の高校生によって発見され、後日、身元は彼が担当していた失踪事件の女性であることが確かめられたのだ。

やはり番組でも再三言われていたとおり、北欧最強の超能力者であるヨルゲンは、この事件を「完全透視」していたのである。

 


 

謎解き 『TVのチカラ』といえば、『川口浩探検隊』や『目撃!ドキュン』などを担当していた過剰な演出が好きな担当プロデューサーの不祥事で、2006年9月の放送を最後に打ち切りになった番組である。

しかし、この番組は2006年末の番組改編期に『新TVのチカラ スペシャル』として一時的に復活し、この放送の目玉として、岩手県盛岡市の女性失踪事件を「完全透視」したとして、「北欧最強の超能力者」と呼ばれるヨルゲン・グスタフソンの透視内容が大々的に取り上げられた。

もちろん番組内では肯定的な情報しか取り上げないので、番組を見た人の中にはヨルゲンの透視能力は本物だと思ってしまった人もいるかもしれない。

しかし冷静に考えてみよう。
彼の透視能力は、本当にそんな凄いものなのだろうか? 都合の悪い事実などは隠していないだろうか? 以下では、まず事件の経緯を簡単に紹介し、その後にヨルゲンの透視内容が、番組の言っているような「完全透視」と呼べる代物なのかどうか、懐疑的に検証してみることにしたい。


事件の経緯

まず始めは、この失踪事件の経緯と、自称超能力者のヨルゲン・グスタフソンについて簡単に紹介しておこう。

2005年12月15日、岩手県盛岡市で当時25歳の女性(番組では実名)が失踪。番組によれば、この女性は中学の頃に受けた いじめを機に引きこもりがちになってしまったそうで、同じく仲の良かった双子の姉も引きこもりから鬱状態になってしまったという。そして2005年3月に2人は、突発的に山中で自殺しようとしたが、地元の人に発見され、このときは無事保護された。

その後、幸いにも姉は回復に向かったが、妹の様子は変わらなかったという。そして2005年12月15日の夕方、部屋にいた姉に「ストッキングを買ってくる」と言って家を出たまま、この女性は二度と帰ってこなかった。
姉によれば、失踪した妹はその数日前に「死にたい」と言っていたとのことで、家族が調べたところ、自宅から睡眠薬とウィスキーを持ち出していたことも判明した。

状況から考えると自殺の可能性はかなり高いといえるが、失踪直後から家族がチラシを配って行方を捜したところ、目撃情報もいくつか寄せられ、生存の可能性も捨て切れなかった。
そこで家族は『TVのチカラ』に依頼し、行方を捜してもらうことにしたのだが、(いくつかの目撃情報はあったものの)有力な手がかりはつかめず、最後の手段として超能力捜査に頼ることになったわけである。

番組が依頼したのは、スウェーデンのある番組から「オーディションした40人の超能力者の中でも、特に優秀だった超能力者」として紹介されたヨルゲン・グスタフソン。
本国のスウェーデンでは知名度もあり、「北欧最強の超能力者」とも呼ばれているという。


検証開始

さて、経緯を簡単に紹介したところで、検証を開始しよう。
ヨルゲンの透視内容について検証するには、伝説でも書いた2006年12月25日の放送だけでなく、その約4ヶ月前に放送されていた8月14日の放送も合わせて比較したほうが、そのトホホぶりがよくわかる。

この8月14日の放送というのは、女性の遺体が発見される前に放送されたもので、12月の都合の悪い部分がカットされた放送よりも、ヨルゲンの透視内容の本質が良くあらわれている。

以下では、この8月の放送をベースに紹介しながら、12月の放送ではどこがカットされ、どのように視聴者に誤った印象を与えようとしようとしているのかも検証する。


・すぐに身体の痛みを訴え転落死の可能性を示唆

番組ではまず、スウェーデンにいるヨルゲンのもとへ向かい、挨拶を交わす。
番組によれば、ヨルゲンは「失踪者の肉体的苦痛・精神状態を自らの身体に映し出す超能力者」とのことだが、テレチカのスタッフがヨルゲンに会うと、いきなり「痛い」、「とても痛い」と言いながら右半身の痛みを訴えた。

さらに、「あなたたち(テレチカのスタッフ)と関係している」、「誰か死んだ人」、「痛みが伝わってくる」などと言いながら、その痛みが、失踪した女性と関係があることを示唆する。

これが放送された8月の時点では女性の死因などは不明だったので、この場面はそれなりにもっともらしく見えるが(海外の自称超能力者を番組で初めて紹介する際にいつも流れる宣伝VTRでは、過去に頭の痛みを訴えて被害者の死因(頭部を銃で撃たれた)を当てたとされていた)、実はこの場面、12月の放送では都合が悪いのでカットされた部分でもある。

というのも、この後でも触れるが、ヨルゲンは失踪女性の死因を「崖からの転落死」と透視しており、何度かそれに関係する発言を繰り返していたので、本当の死因が「睡眠薬の服毒&凍死」であり、崖から転落などしていないことが判明してしまっている現在では、都合が悪いのでカットしてしまったのだろう。


・異なる透視内容

さて番組のほうでは、失踪女性の居場所についての透視が始まる。

・「突然細い道を感じる。細くてグネグネ曲がりくねった上り坂を歩いていて、上に伸びる階段がある。階段の周囲は宗教的な意味のある場所だ。切り立った急斜面の上に立っている。斜面というよりも崖だ。崖の近くには水と森も感じる」

・「とても気持ちが混乱していて頭の中がグルグルしているんだ。(ここで番組ナレーション『さおりさんは崖の上で混乱し、足を滑らせたという』)」

・「待てよ、途中どこかで青いトラックが目に入った。運転している感じではない。だが、もし乗ったなら非常に遠くに行っただろうし、乗っていなければすぐ近くにいるだろう。重要な問題だが今のところはっきりわからない」

・「彼女の声が聞こえる。単語の一部かもしれないが、こんな風に聞こえる。日本語で『so・to』という音だ。音として聞こえるんだ。彼女の声で。『(それは「そっと」「卒倒」、もしくは「外」なのか』とナレーション)」


基本的には12月の放送と同じだが、いくつかの箇所は、この8月の放送のみ触れられ、12月の放送ではカットされている。(以下でその箇所を指摘)

まずは「崖の近くには水と森も感じる」という透視。
自殺しているとした場合、遺体が8ヶ月以上見つかっていないことを考慮すれば、水中に沈んでいるか、人目につきにくい森や林の中にあることが考えられる。

そこでヨルゲンの透視を見ると、「水」「森」両方の可能性を挙げている。
どちらか一方を断言しないあたりはさすが自称超能力者。抜かりがない。

次は「とても気持ちが混乱していて頭の中がグルグルしているんだ。(ここで番組ナレーション『さおりさんは崖の上で混乱し、足を滑らせたという』)」の場面。
ここは12月の放送では全面カット。死因は崖からの転落死ではなかったので、都合が悪かったのだろう。

続いては、青いトラックについて、「もし乗ったなら非常に遠くに行っただろうし、乗っていなければすぐ近くにいるだろう」という透視。
これも12月の放送ではカットされたので、12月の番組だけを見ると青いトラックに乗った可能性については言及していないかのように思えてしまうが、実際はちゃっかり触れている。
これは万が一、地元以外の遠い場所で見つかったときのことを考えての布石だろう。遺体は見つかったが移動方法は不明だった場合、「青いトラックに乗って移動したのだ」と後からこじつけることが可能である。


・湖について透視

居場所についての透視は、この後、日本にいる失踪女性の家族と電話で連絡を取りながら行われ、ヨルゲンは湖に関する重要な透視を行うことになる。
彼は日本地図を広げると、「この方向に移動したと思う」「ここへ家族と出かけたことがあるか知りたい」として、自宅から20キロ離れた岩洞湖を指差す。(すかさず、ここで「青いトラックに乗って移動したのだろうか」とナレーションも入る)

岩洞湖さて、この地図上で湖を指差す場面をよく確認してみると、ヨルゲンが指差した岩洞湖のすぐ近くに、「外山」「外山高原」(画面では「岩洞湖」の字幕で隠されているが、その下に書かれている)の2つの地名が書かれていることに気付く。

気になったので調べてみたところ、失踪女性の自宅から行けそうな湖(ダム、池)は、周囲に大きめのが4つ、小さめのが3つほどあることがわかった。(地図はこちら。中心の赤い印が失踪現場付近)

この中でヨルゲンが選んだのは地図の右側にある岩洞湖だが、他の湖や池に対し、この湖と途中にある外山ダムだけが高地にあることがわかる。また、岩洞湖は観光地として有名で、ヨルゲンが事前に言っていた「家族で訪れたことがある場所」に当てはまる可能性も高い。このことから私の推測だが、家族と訪れた可能性や崖からの転落死の可能性も考えて、ヨルゲンは岩洞湖を選んだのかもしれない。

それと、この湖の透視とセットで「so・to」というキーワードを挙げておけば、途中にある「外山」、「外山高原」、「外山ダム」といった場所も透視に含めることが可能になる。(実際、地図で指差したあとに家族に電話で確認するシーンで、岩洞湖の話題に移る前に、「so・to」というキーワードについて心当たりがないか聞いている)

ということは、このキーワードを挙げておくのはかなりお得だといえそうだ(手間といえば日本語の読み方を調べる程度)。岩洞湖も挙げておけば、2つの湖(ダム)を透視に含めることが可能になるし、国道455線で向かう途中の高地一帯も含めることができる。かなり範囲が広がるのだ。

【画像引用元】
『TVのチカラ』(テレビ朝日・2006年8月14日放送)


・断崖絶壁がなかった湖

家族と電話で話したヨルゲンは、まだ湖での自殺の可能性に関して断言を避けてボカしながら、直接、日本へ行って確かめたいと言い出す。そして場面は日本へ。

来日したヨルゲンは、すぐに岩洞湖へ向かう。湖畔を歩きながら湖を確認すると、
「感じるのは幸せな気持ちだけ。ここではない。彼女の思いは残っているが、彼女の姿はここには存在しない」と言って、ホテルに戻ってしまう。

さてこの場面を実際に見てみると、ヨルゲンは現場を透視しているように見せつつ、本当はただ単に現場が自殺できそうな場所かどうか確認しているだけのようにも見えた。
というのも、ヨルゲンは「崖」というキーワードをすでに挙げており、彼としては、切り立った断崖絶壁のような場所から飛び込んで自殺できそうな場所があるか知りたかったのではないだろうか。

しかし、実際にこの湖の湖畔を歩いている場面を見て気づくのは、周囲に崖っぽいのはあるが、飛び込んで自殺できそうな高さのある場所は全然無いのだ。
だからヨルゲンが湖での自殺の可能性を指摘しつつ結局否定したのも、現場を実際に見てみて、ここで自殺は無理っぽいと考えたからのようにも思える。(「宗教的施設」などのキーワードについては適当にこじつけるか、無ければ放送でカットすればOK)


・崖からの転落死を透視

続いてはホテルに戻っての場面である。ヨルゲンは次のように話し出す。

「頭がクラクラして、とても気分が悪い」
「落ちてる! ずっと落下している!」
「特にこの当たりが激しく痛むんだ」
と後頭部を触る。
そして 「この辺も、落下した時に強くぶつけたようだ」と右半身も
指差す。

読んでもらえばわかるとおり、ここでは転落死の可能性を強く指摘している。
しかし12月の放送では、この場面は全面カット。もちろんカットした理由は透視がハズれて都合が悪いからだろう。


・おそるべき編集

次にこの後だが、ヨルゲンは失踪女性の家へ行き、両親に彼女の部屋を見せてほしいと言い出す。すぐさま部屋に入ると、机の上にあった一冊の童話を手に取り、今度はいきなり泣き出す。

そして彼が部屋を出て廊下を歩いていく背中をカメラが見送りながら、「何かに導かれるように家の外へ」とナレーションが入り、ヨルゲンは住宅街の道を歩き出して突然 透視を開始する。

さて、一見ふつうに見えるこの場面であるが、実は12月25日に放送された同じ場面では、大きな編集が加えられていた。詳しく説明すると、まず8月の放送では次のような順番で放送があった。


(1) 失踪女性の部屋でヨルゲンが泣き出す。
(2) 突然部屋を出て廊下を歩いていく後姿をカメラが見送る。
(3) 突然の出来事で後ろで見送っていたはずのカメラが、次の玄関
  からヨルゲンが出てくるシーンでは前から待ち構えて撮っている。
(4) ヨルゲンを追うと外を歩き出して透視を開始。
(5) その後、透視を終えて家に戻ってきた彼は、両親に、娘さんが崖
  から転落して亡くなったことを告げて泣き出す。


しかしこれが12月の放送になると、(1)と(2)の場面がカットされ、最後のはずの(5)の場面が最初に放送され、その後に(3)→(4)と続く。本当なら(5)と(3)の間には繋がりがないだけでなく、前後関係も逆なのにもかかわらず、12月の放送では「この収録中、ヨルゲンは何かを感じたのか、突然、無言のまま外に出た」ともっともらしくナレーションが入り、(5)の後にすぐ(3)の場面が続くかのように放送されるのだ。
編集恐るべしである。


・遺体の15メートル横を通りながら全く気付かない超能力者って?

家を出て住宅街を歩き出したヨルゲンであるが、ここで次のようなナレーションが
入る。

「彼は失踪者の見た風景を感じ取る能力に長けた特殊な超能力者」


透視ポイントの地図 もし本当に失踪者の見た風景を感じ取っているのなら、この後で大きな矛盾が出てくるのだが、ここでは後回しにして先に進もう。
ここから先は問題の青いトラック(←これ自体曖昧なキーワードであることに注意)を見つける場面まで基本的には12月の放送と同じ。まずは失踪女性の自宅がある住宅街から山へ入る最短の道である細い山道を歩いていく。
山道については、そもそも細いのが当たり前であるし、この道を選んだことに関しても、「崖からの転落死」を透視の中心に据えていたヨルゲンが、失踪女性の自宅から近い高地に上るために住宅街を歩いていき、一番最初にあった山道を上っていったのであるから、この道を選んだことは特に不思議もない。(山へ上るための選択肢は他にないのだから)
ただし細い山道を進んでいき、途中の二股の道で正解の右方向を選んだのは唯一褒めるべきところかもしれない。(確率は二分の一ではあるが)

その後は、国道に出るところで青いトラック(結局 清掃車だった)が複数駐車してあるのを見つける。12月の放送では、この「青いトラック」というキーワードが最重要であり、結果的に遺体から最も近かったことから最大の当たりとされた。

しかし遺体が見つかる前の8月放送のこの場面でのヨルゲンはというと、実は自分の右側15メートルのところに探している遺体があることにはまったく気付いていない。見向きもしない。完全スルーである。

番組でも、この青いトラックの場面が放送されるのは、たったの25秒程度。12月の放送では、しつこいくらい青いトラックに関する話を放送していたが、8月の放送ではさらりと流してしまっていた。

【画像引用元】
『新・TVのチカラ スペシャル』(テレビ朝日・2006年12月25日放送)


・最初は迷わず左を選択

さて、この後ヨルゲンは国道455号線に出ると、まずは左に曲がる。
そして途中の脇道に入ると、その道を上っていくが、最後は行き止まりになってしまう。ヨルゲンによれば「この場所に さおりさんは感じない」とのことであり、「崖」
「階段」といったキーワードに当てはまるものもないため、この日の透視による捜索は終わり、翌日に持ち越される。(翌日は右方向を捜索)

しかし、この国道を迷わず左に曲がって歩き回った場面、12月の放送ではカットされている。このときの放送では8月には放送しなかった未公開映像として、国道を行ったり来たりするヨルゲンの姿が紹介されるが、最初に迷わず左に曲がって国道の左方面を捜し歩いたところは放送されなかった。


・本当に失踪者が見た風景を感じとっているのか?

翌日は右方向を捜索。しかしヨルゲンは途中で立ち止まったりして悩むのだが、
「so・to」というキーワードと似た発音の地名が電柱に書かれているのをスタッフが見つけると、さらに先へ進んで歩き出す。

すると、「宗教的な意味のある場所」というキーワードに当てはまる寺を発見。番組では、このあと他のキーワードとの一致も次々見られる。
寺へと上っていく道は「曲がりくねった山道」。盛岡大仏もあり、それを見たヨルゲンは嬉しそうに「宗教的な場所」と言いながら頷き、さらに進むと「上に伸びる階段」も見つける。
ただし、この「上に伸びる階段」というのはたった6段しかない、かなり
ショボいものである。まあ階段であることは確かではあるが、こじつけに精一杯でセコさが際立ってしまうあたりは思わず失笑してしまう。

それと大仏を見たヨルゲンが、自分の透視したキーワードである「宗教的な場所」と言いながら頷く場面だが、上でも紹介した「失踪者の見た風景を感じ取る能力に長けた特殊な超能力者」というナレーションのとおりだとするならば、明らかにおかしいと指摘せざるを得ない。

失踪者が見た風景を感じ取っているハズなのに、なぜ「大仏」というとてもインパクトある風景について透視では触れなかったのだろうか。
名称がわからずとも、見たままの形を言えばいい。「宗教的な意味のある場所」などと曖昧でいくらでも解釈の幅を広げられる表現にする必要などないだろう。


・断言して都合の悪くなった最重要透視ポイント

このあと番組では、「山道は寺よりもさらに高い場所へと続く」「頂上には広場が」とナレーションが入り、ヨルゲンが山道をさらに上って頂上の広場を歩くシーンが見られる。(その後、頂上で崖を見つける)

このことから、最初の透視で言っていた「(宗教的な意味のある場所は)切り立った急斜面の上に立っている」というのはハズレであることは確定だろう。切り立った急斜面の上には大仏も寺もなく、雑草が生えた単なる原っぱしかなかったのだから。

さて番組のほうは、この崖を見つけた場面で、「そこまでには『水』以外の全てのキーワードがあった」とナレーションが入る。
そして頂上で崖を見つけたヨルゲンのほうは、強く確信したのか、

「彼女をとても強く感じる。もう目の前にいる」

「見えたのはここに間違いない。この崖から落下したんだろう」

崖の上でのワンシーン断言する。そして、「特にこの辺りを重点的に捜して欲しい」とスタッフに指示したり、その後には崖の上で突然泣き出す、というシーンが続いた。どうやら「凡人には見えないものが見えてしまう超能力者の悲しい宿命」みたいな感じを気取っているようである。

だが、君が泣いて小芝居をしているその場所には、失踪女性の遺体はないのだ。違う場所から見つかったことが分かっている現在から見ると、このシーンはかなり滑稽である。

ちなみに、この一連の断言&滑稽シーンは12月の放送ではもちろんカットされていたが、8月の放送では大々的に最重要透視ポイントとして放送した手前、崖の捜索シーンだけは(断言シーンなどはカットして)少しだけ紹介しなければならなかった。

しかし番組からすれば、最も都合が悪く、触れなくない箇所である。紹介の際には、ヨルゲンが透視に迷ったシーンを前に入れ「ついに明確な答えは出なかった」「正確無比の透視に迷いが」などとナレーションや字幕も入れて、崖の透視は迷った上で行ったものだと視聴者に印象付けようとしていた。

だが実際は、ヨルゲンは途中の道で迷いはするものの、その後はすぐ元に戻り、崖で透視したところでは確信に満ち、断言し、その場で泣いたという事実があることを忘れてはならない。
迷っていたのではなく、自信満々だったのである。(見事にハズしたが)

【画像引用元】
『TVのチカラ』(テレビ朝日・2006年8月14日放送)


・こじつけられなければ編集でカット

さて、いよいよ8月放送の最後の場面である。
崖の上からの転落死を透視したヨルゲンは、この後に失踪女性の自宅へ戻って両親に透視結果を報告する。(これが上の「恐るべき編集」のところで紹介した(5)のシーン)
そして両親と話したヨルゲンは、このあと帰国。 番組のほうでは、後日スタッフがヨルゲンの透視したポイントを捜索する。

最初の捜索では、細い道の途中にあった小屋で、女性が睡眠薬と酒を飲んだとヨルゲンが透視していたので、この小屋で酒が入っていたビンがないか捜すが、手がかりになりそうなものは何も見つからない。

そこで次は、ヨルゲンの透視の最重要ポイントである崖を捜索開始。
開始時点では、透視キーワードのうち、「水」に関するものだけが見つかっていなかった。でもテレチカに限らず超能力捜査番組全般に言えることだが、番組で最初に透視キーワードを挙げたら、そのキーワードは後でほぼ必ず全部当てはまるものが見つかる、というお約束がある。

だから「水」に関するキーワードも、後で必ず見つけるだろうと予想できる。
そして、その予想は的中。崖の下を捜索していたスタッフが、わずかに水が流れる小さな沢を発見するのだ。これで全部のキーワードが見つかったことになる。

しかし、ここでこの一連の流れを振り返り、8月の放送と12月の放送を比べてみると、重要なことがわかってくる。ヨルゲンが透視したとされるキーワードが、この2つの放送では少し違っているのだ。以下に示すので比較してみよう。


【8月の放送でのキーワード】
細い道、曲がりくねった山道、階段、宗教的な場所、崖、水、
青いトラック、 「so・to」という音

【12月の放送でのキーワード】
細い道、階段、宗教的な場所、崖、青いトラック、「so・to」という音


ご覧のとおり、12月の放送では「曲がりくねった山道」「水」というキーワードが削られている。
最初のキーワードに関しては、寺の近くでは見つかったが、遺体発見現場や、そこまでの道で該当するものがなかった。(曲がりくねった山道なんてどこにでもありそうだからヨルゲンはキーワードに含めたのだと思うが、現場付近やそこまでの道では残念ながら直線ばっかりだった)

そして次の「水」に関するキーワードは、8月の放送では最後にやっと小さな沢を発見できたが、上と同じく遺体発見現場付近や、そこまでの場所で、こじつけられそうな川や池はなかった。(どこにでもありそうなだけに意外。ヨルゲンにとっては痛手)

だから都合が悪いので12月の放送ではカットしたのだろう。
ただし、本当なら「崖」に関する透視結果もカットしたかったのだと思うが、これは8月の放送で最重要キーワードとして紹介しているし、大々的に捜索もしているので、さすがに視聴者も多くは覚えているだろうからカットすることはできなかったのだと思われる。(ちなみに12月の放送では、遺体が発見された林を崖だと言い張っていたが、かなり無理がある。8月の放送で崖を捜していたヨルゲンが、すぐ横を通りながら見向きもせず全く気付かなかったのが、無理なこじつけである何よりの証拠)

しかしこうやって比べてみると、上で書いた「透視したキーワードは後でほぼ必ず全部当てはまるものが見つかる」というお約束が大体いつも成立するのは、元々曖昧でどこにでもありそうなキーワードであることや、それを多少無理でもこじつけようとする超能力者と番組スタッフ、そして当てはめたりこじつけたりできなければ編集でカットして番組では紹介しないという最終的な手段を使っているからなのだろう。

※ちなみに、ヨルゲンの透視をもとに崖を捜索しても、何の手がかりも得られなかったことは言うまでもない。


最後にまとめ

さて、長くなってしまったが最後にこれまでを振り返りながらまとめておこう。

結局ヨルゲンの透視というのは、良くも悪くも超能力捜査官の特徴をよくあらわしていた。どこにでもありそうな曖昧なキーワードや、複数の可能性に対処するための「したたかさ」などは、その特徴そのもの。会ってすぐや途中にも入れた身体の痛みを訴える小芝居、崖の上での号泣シーンなどは、結局大ハズレではあったものの、もし当たっていればかなりのインパクトを与えることができただろう。

また途中で遺体の近くを通りながら、全く気付かなかったことや、最後に断言し、大がかりな捜索を行うもののお約束どおり見つからないところなどは、自称超能力捜査官らしさと、その限界を雄弁に物語っている。

また一方でTV局のほうも、今回の2つの放送はその特徴をよくあらわしていた。
都合の悪いところはカットし、こじつけることができなければ無かったことにして放送しないなどの特徴は、その典型である。

最後になるが、この検証に際しある方から言われ、なるほどと思ったことがあったので、それを自分なりにアレンジして紹介し 終わりとしたい。

「実際は番組の言う『完全透視』には程遠くても、編集という小細工を駆使すれば、もっともらしい超能力があるかのように見せかけることができる。これぞ、まさに『TVのチカラ』である」